ユーザー体験をデザインしてみての「つまずき」
デザイナーの杉山です。現在、CX事業本部にて日々モバイルアプリケーション、LINEアプリケーションの開発に携わっています。
先日、クラスメソッドの新規アプリケーション開発業務において、体験設計を行いました。
体験設計に関しては、定期的にデザイナチームが集まり、勉強会を開催しています。これまで複数回に渡って、ユーザーストーリーマッピングの制作と、その制作に必要なフレームワークの試行を行いました。
しかし、準備をしていても、実際の現場ではさまざまなつまづきが起こりました。
ここでは、具体的にどんな箇所でつまづいたのか、問題があったのか、そしてどのように改善したのか、について紹介します。
体験設計の重要性
私達は朝起きてから眠るまで、日常的に沢山のモノやサービスを利用して生活をしています。
そして、その膨大なモノやサービスには、どれも楽しんでほしい、喜んでほしい、便利に使ってほしい、といった意図が存在します。ユーザーがそのモノやサービスを使うのは、「楽しい」「嬉しい」「便利だ」という体験の結果が得られるからです。結果が得られなければ、ユーザーが貴重な時間やコストを消費し、使ってくれることはありません。
そこで、開発の前に、どういった人が、どういった体験を望んでいるのか、どういったものを我々が提供できるのか、について考える必要があります。
体験設計勉強会とは
デザイナーチームでは週に1度メンバーが集まり、勉強会を開催しています。内容はさまざまで、そのときにメンバーの多くが必要だと感じたものから優先順位的に選定されます。
体験設計勉強会は、全てのメンバーがユーザーストーリーマッピングの進行(ファシリテーター)が出来るように、という目的で開催されていました。体験設計は本を読む、といった受動的な座学だけで身につけるのは困難だと考えます。実際にワークショップを繰り返し、試行錯誤することが学習の近道と考えました。
テーマについても開催日までに進行役が準備しました。使用されるフレームワークや会の構成なども進行役が選択し、まずは自身が経験することを重要視しました。
勉強会での仮説議題と使用したフレームワーク
実際に進行をやってみると、思った以上にうまくいきません。指南書や世に出ているHow toどおりに進行をしても、上手く行かないポイントが現れてきます。ユーザーストーリーマッピングはいきなり「さあ始めましょう」といってスタートできるものではないのです。本当にこのフレームワークを使用するのが正しいのか、ワークショップとしてゴールにたどり着けるのかといった問題なども常に孕みますので、事前の準備が必要です。
そこで、「失敗しても良い、まずはやってみよう」を合言葉に試行錯誤を繰り返し、徐々に完成度をあげていきました。
後半になればなるほど使用するフレームワークの幅が広がり、メンバー全体の理解が少しずつ深まっています。
議題 | 使用したフレームワーク | 実際のボード |
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第1回:サウナサービス
感染症が流行している中でも提供できるサウナについて ユーザーストーリーマッピングを作成しました |
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第2回:タクシー相乗りサービス
旧Cocoda Traingの企業課題として 提示されていたサービス「Tride」について考えました |
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第3回:イベント記録サービス
参加したいイベントの予定を立てる、 写真を記録する、シェアする、 といったことができる サービスについて考えました |
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第4回:ペットカメラサービス
ペットを変わった柄に変更し、 写真撮影ができるサービスについて考えました |
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第5回:ペットケアサービス
旅行などで家を離れる際に、 ペットの世話を代行してくれる サービスについて考えました |
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実案件での利用
体験設計勉強会後、実案件にて実際に施行する機会に恵まれました。これまで実施した勉強会の知見を元に、以下のフレームワークを使用することにしました。
ペルソナ法
インタビューなどのユーザー調査を元に、典型的なユーザーのゴール、態度、意識、行動などのパターンを導出し、ユーザーの代表モデルを作ります。まるで実在する人物かのように作成します。
バリュープロポジションキャンバス(VPC)
「バリュープロポジション」とは、「顧客に提供する価値」のことです。想定しているバリュープロポジションと、顧客のニーズとのずれを確認します。
ユーザーストーリーマッピング
ユーザーストーリーマッピングとは、ストーリー(ユーザーにとっての価値)を付箋紙などに書き出し、ユーザーの体験順に時系列で左右に整理、似た機能は上下(基本機能を上、派生的な機能は下)に整理して壁などにマッピングしていく手法です。
参考:https://dev.classmethod.jp/articles/user_story_mapping/
ユーザーのストーリーを明文化するための準備として、最低限必要な情報をそろえるために、3つのフレームワークを選定しました。
プロジェクト開始前から、既にお客様がインタビュー記録を収集してくださっていたことはペルソナ制作の準備として有用でした。
またサービスでやりたいことの骨子が既に定まっていたため、現状のどこにずれがあるのか、何がゴールにたどり着く上で阻害要因となっているのかを重視しました。
ペルソナ制作におけるつまづき
△ペルソナ制作でのつまづき:メンバーが自分自身の視点で考えてしまう
◎やったこと:インタビューを実施、インタビュー結果を常に確認
ペルソナ制作で大切なことは理想像(イメージ)で作らず、ユーザー調査を元にすることです。しかし、このプロジェクトでは開発メンバー自身が想定ユーザーと近い属性であったこともあり、自分達の想像のみで進行してしまう恐れがありました。
そこで、お客様が収集してくださったインタビュー記録とあわせ、社内でも今回のサービスターゲットに該当する方にインタビューをお願いしました。
社内インタビューはこれまでに繰り返し実施していたので(参考:https://dev.classmethod.jp/articles/hearing_for_design/)、スムーズに進行でき、フォーマットも流用することができました。
実際のインタビュー記録画面(機密事項のためモザイクを入れています)
本番ワークショップ実施中も、思いもよらず「自分の意見」を付箋に書いてしまうケースが散見されました。サービスターゲットに自分たちも該当する要素があることが要因でした。
そこで、常にインタビューの概要を隣に配置し、確認できるようにしました。出した案はその都度対話と投票を行い、参加メンバーが納得する形で次に進めるように進行を行いました。
結果、常にメンバーの脳裏に思い浮かべることが出来るペルソナを制作することが出来ました。このペルソナは最後まで指標として機能していきます。
Miroでアイデア出し(機密事項のためモザイクを入れています)
完成したペルソナ(機密事項のためモザイクを入れています)
顔写真はAIの素材をお借りして使用しています。
AI人物素材(ベータ版):https://www.photo-ac.com/main/genface
バリュープロポジションキャンバス制作におけるつまづき
△つまづき:項目が上手く埋められない
◎やったこと:完璧に完成させない
バリュープロポジションキャンバスにおけるつまづきは、全ての項目を綺麗に埋めることが出来なかったことです。
ゲインクリエイター(嬉しいことを増やす)とペインリリーバー(嫌なことを減らす)の部分は、無理に埋めようとすると歪が生じてしまいました。
勉強会など仮のテーマとは違い、実案件では既にサービスの骨子や予算、期間、規模が決まっていることがあります。どうしても動かせない条件と折り合いを付ける必要があるのです。
今回のゴールは「実現したいことは何なのか」を明らかにすることであったため、注力する方向や実現したいことはなんなのか、というテーマに絞りました。
また「製品・サービス」の部分を予め行った「ジョブ」と鏡合わせになるようにアイデア出しを行いました。これによってよりノイズの少ないアイデア出しに注力しました。
完成したバリュープロポジションキャンバス(機密事項のためモザイクを入れています)
ユーザーストーリーマッピング制作におけるつまづき
△つまづき:実はストーリーが2つあった
◎やったこと:より理想的なストーリーを残した
ワークショップを進めていくと、ペルソナのコンディションによって、体験の内容がかなり大きく変わり、少なくとも2種類のルートが存在する、ということに気づきました。そこで当初の予定を大幅に修正しながら進行し、より優先順位の高い、理想的なストーリーをメインに据えました。最終的には2つめのルートは別のユーザーストーリーマッピングとして作成しました。
このようにユーザーのコンディションで実はストーリーが複数展開する、といったことも、ユーザーストーリーマッピングを実際に作ることで、問題点として発見することが出来ます。
完成したユーザーストーリーマッピング(機密事項のためモザイクを入れています)
メンバーが共同で手を動かすことの意義
一連の体験設計をお客様と開発メンバーが一緒になって行うことで、互いの認識の共有を行うことが出来ました。成果物を作ることと共に、抱いている理想や、現実的な懸念点を共有できたことは、この後の開発において意義深いものになりました。
やりたいことが書かれた資料をただ参照するのではなく、同じ時間を共有することが、ゴールを明確にし、やることやらないことを明瞭にしました。
体験設計後
以上のワークショップを終え、画面制作に移りました。
その後、製品開発からユーザーテストに移り、非常に好意的な結果を得ることが出来ました。
実案件ではさまざまなつまづきが発生しましたが、その場その場で対応が可能だったのは「勉強会で繰り返しワークショップを実際にやったこと」そして「綿密なリハーサルを行ったこと」です。ぼんやりとした中で、サービスのゴールを明確にしていくことは容易なことではない、というのを改めて感じるとともに、試行錯誤の重要性、実際に手を動かすことの重要性を改めて認識しました。
今後もよりよい開発の助けになれるよう、お客様やユーザーへよりよい体験を届けられるよう、研鑽を積んでいく所存です。
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